シベリウス:ヴァイオリン協奏曲 ニ短調 作品47

指揮: ハンヌ・リントゥ Hannu Lintu
フィンランド放送交響楽団 Finnish Radio Symphony Orchestra
ヴァイオリン:諏訪内 晶子 Akiko Suwanai
Recorded live at Tokyo's Suntory Hall on 4 November 2015.

シベリウスのヴァイオリン協奏曲 ニ短調 作品47は、1903年に作曲された。1905年に改訂され、これが現行版となっている。
シベリウスは若い頃ヴァイオリニストを目指しており(しかしあがり症のため断念してしまった)、彼の唯一の協奏曲となった本作品もヴァイオリンを独奏楽器とする作品である。シベリウスの作風は交響的でありながら室内楽的な緊密な書法を基盤としており、独奏者がオーケストラと対等に渡り合い、名人的な技巧を披露することを目的とする『通例の』協奏曲とは必ずしも相容れない。
協奏曲の通例どおり「急 - 緩 - 急」の3楽章からなるが、特に第1楽章に強い独創性が認められる。独奏楽器の技巧性よりも交響的な重厚な響きと室内楽的な緊密な構成が特筆される。

協奏曲の通例どおり「急 - 緩 - 急」の3楽章からなるが、特に第1楽章に強い独創性が認められる。前述のとおり、独奏楽器の技巧性よりも交響的で重厚な響きと室内楽的で緊密な構成が特筆される。

第1楽章 Allegro moderato - Allegro molto - Moderato assai - Allegro moderato - Allegro molto vivaceニ短調、拡大された自由なソナタ形式。大まかには提示部(3つの主題)-展開部(カデンツァ)-やや変形された再現部とコーダ の形を取る。シベリウスは第1楽章の冒頭部分に関して、「極寒の澄み切った北の空を、悠然と滑空する鷲のように」と述べている。4声に分割された弱音器付きのヴァイオリンが小さく和声を刻む上を、独奏ヴァイオリンが第1主題(ニ短調)を提示して曲は始まる。独奏楽器がカデンツァ風にパッセージを奏でた後、チェロとファゴットが4分の6拍子で第2主題を開始する。主題が確立した後、曲はテンポを落とし、独奏楽器がゆったりとこの主題を歌う。独奏楽器が長いトリルを奏でた後、曲は2分の2拍子の第3主題部(変ロ短調)となる。ここでは独奏楽器は現れず、オーケストラは力強い主題を奏でて高揚してゆく。管弦楽の興奮が収まったところを独奏楽器が引き取り、低音楽器によるpppの持続音が消えたところでこれまでの3つの主題を素材にしたカデンツァを奏でる。通例は楽章の最後に置かれるカデンツァが、ソナタ形式の展開部にあたる楽章の中央に位置するのがこの作品の最大の特徴であり、このカデンツァはそれに値するだけの精緻な主題操作と展開で構成されている。ソナタ形式の原理に当てはめるならば、カデンツァの後が再現部となるが、通常のソナタ形式の再現部とは異なり、各主題は大きく変化した形で再現される。ここでも入念に展開がなされており、再現しながら展開するという独創的な形になっている。なお初稿では再現部の第3主題前にもカデンツァを置いていたが、改訂時に削除された。交響曲を思わせる重厚な響き、緊密な構成など、いかにもシベリウスらしい独創性に富んだ楽章で、古今のヴァイオリン協奏曲の中でも屈指のスケール感をもつ名楽章である。

第2楽章 Adagio di molto変ロ長調、3部形式。楽章のはじめに木管楽器が導入句を演奏する。これに続いて独奏楽器が主部主題を厳かに奏でる。すると弦楽器が突然冒頭部の動機を強音で演奏し、劇的な中間部に入る。しかしヴィオラ、オーボエ、クラリネットが主部主題を提示し、楽章は静かに閉じられる。

第3楽章 Allegro ma non troppoニ長調、自由なロンド形式でA-B-A-B-A’(コーダ)の構造となっている。ティンパニ、低弦の刻むリズムに乗って独奏楽器が技巧性を発揮する華やかで常動的なロンド主題を奏することで開始される。副楽節は短調に転じた舞曲風のリズミックな主題である。次いでロンド部、副楽節部と展開しながら反復し、華麗に盛り上がってゆく。最後はロンド部の断片を結尾として華やかに終止する。

シベリウス:ヴァイオリン協奏曲

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