トッカータ Toccata

トッカータ(伊 toccata)とは、主に鍵盤楽器による、速い走句(パッセージ)や細かな音形の変化などを伴った即興的な楽曲で、技巧的な表現が特徴。toccataは動詞toccare(触れる)に由来しており、オルガンやチェンバロの調子、調律を見るための試し弾きといった意味が由来である。最初期の鍵盤用トッカータは16世紀中ごろに北イタリアで現れた。

発生~ルネサンス期

 

ルネサンス末期~初期バロック

 

中後期バロック

フレスコバルディのトッカータにおける形式や表現法はその弟子たちによって引き継がれ、発展していった。ミケランジェロ・ロッシはフレスコバルディの半音階やエキセントリックなリズム表現法をさらに推し進めた一方で、ベルナルド・パスクィーニはパッセージワークの技法において後期バロックに近い表現を展開した。 フレスコバルディの弟子の中で今日特に有名なのがヨハン・ヤーコプ・フローベルガーである。ウイーンの宮廷礼拝堂付オルガニストであったころ、ローマに滞在しフレスコバルディに学んでいる。フローベルガーのトッカータの楽節的構造はフレスコバルディの影響と見られる一方、個々の楽節は概してフレスコバルディのそれよりも長く、また半音階や奇抜なリズム法はあまり見られない。結果として曲全体としての調和が図られている。フローベルガーはフランスの音楽にも造詣が深く、実際各地を旅し、同時代のフランスの音楽家にも影響を与えたと言われている。 フローベルガーに続いて、南ドイツではヨハン・カスパール・ケルル、ゲオルク・ムッファト、ヨハン・パッヘルベルといった作曲家が活発に優れた鍵盤音楽を作曲し、その中にも多くのトッカータが含まれている。

北方ヨーロッパではスウェーリンク以来のオルガンの伝統があったが、トッカータはそれほど重要視されていなかったようだ。しかし、北方ヨーロッパの伝統を受け継いだ中期バロックの作曲家として、今日ではディートリヒ・ブクステフーデがとくによく知られている。彼のオルガン用トッカータは構成や技法の観点からプレリューディア praeludia とか、プレアンビュルム praeambulum と題名付けられた作品と同種のものである。これらの作品では、即興的楽節と対位法的楽節が交互に組み合わされているが、それぞれの楽節は長く複雑である。対位法的楽節では厳格な模倣を展開する場合が多く、今日フーガと呼ばれるようなものになっている。これらの作品は概して大規模であり、しばしば技巧的なペダル操作を伴っている。これらの特徴はヨハン・ゼバスティアン・バッハの同種の作品群にも受け継がれている。

後期バロックにおいてはイタリアでアレッサンドロ・スカルラッティがチェンバロ用のトッカータを残している。これらは技法の面から見ると息子のドメニコ・スカルラッティのソナタや古典派の鍵盤音楽に見られる常動的パッセージを多く含んでおり上で見てきたトッカータの歴史からは多少乖離した作品である。ナポリ音楽院写本 ms.9478 にあるトッカータの一つは、全曲にわたって指番号が指定されており、これらのトッカータは教育のためにも用いられていた事がわかる。これは、当時の運指法を知る上でも重要な資料の一つである。

後期バロックにおいてトッカータの傑作を残した最後の作曲家がヨハン・ゼバスティアン・バッハである。バッハは彼に直接影響を及ぼしたと思われるブクステフーデなどの作品をよく知っていたばかりではなく、より古い時代の音楽家の作品も詳しく研究していた事が知られており、フレスコバルディの「音楽の花束」(Fiori Musicali)やフローベルガーの作品を写譜していた事がわかっている。
オルガン用のトッカータにおいてはブクステフーデの様式を継承するとともに、規模や様式的一貫性、複雑性をより発展させた一方、チェンバロ用のトッカータにはより古い時代のトッカータの影響も見られる。

古典期以降

古典期にはトッカータと名の付く作品はほとんど作られなかったが、後期バロックのトッカータの持っていた常動曲 (moto perpetuo) 的な曲想はピアノ音楽に受け継がれた。数少ない「トッカータ」と名の付く曲でも、即興的楽節と対位法的楽節の組み合わせといった本来のトッカータの性質は失われ、専ら動きの速い反復音形や同音連打といった常動的側面が強調されている。 古典派においてはムツィオ・クレメンティのソナタ作品11に含まれるトッカータが数少ないよく知られた例である。ロマン派におけるトッカータの代表例はロベルト・シューマンのトッカータ作品7である。

近代になるとより注目すべきトッカータの例が現れる。クロード・ドビュッシーの「ピアノのために」(Pour le piano) の第3曲や、モーリス・ラヴェルの「クープランの墓」(Le Tombeau de Couperin) 第6曲はその例である。これらは曲の命名からして懐古的発想が伺えるが、楽想そのものとしてはやはり常動曲としての側面が強い。ラヴェルの「トッカータ」は20世紀のピアノ曲の中でも屈指の難曲といわれる。同音連打が終始一貫して繰り広げられるのが特徴であるが、高速な同音連打は古い時代のピアノでは鍵盤の戻りの悪さから非常に困難であったらしく、近代以降の高性能なアクション(打弦機構)が開発されてから可能になったとされる。プロコフィエフのトッカータ作品11もこの系譜の上に置かれる作品である。

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