ワーグナー: 楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」より第一幕への前奏曲 "Die Meistersinger von Nürnberg"

指揮: 秋山 和慶 Kazuyoshi Akiyama
洗足学園音楽大学管弦楽団
2015年7月20日 洗足学園 前田ホール

『マイスタージンガー』は、ザックスが「ドイツ芸術」を称揚するラストを持っており、ワーグナー自身が反ユダヤ主義思想の持ち主だったことに加えて、後世にナチス・ドイツが国家主義思想の高揚のために、ニュルンベルク党大会に際してこのオペラが上演されるなど、最大限利用された。このため、現在でもこのオペラがそうした思想の産物あるいはそれらを呼び起こすものとして疎んじられる傾向があり、「ドイツ芸術」を讃えるラストのザックスの演説などは戦後、頻繁にカットされ上演された。一方この演説は、ドイツ語圏が育んだ芸術や文化、風土を愛する宣言であって、特定の政治体制、国家的な枠組みの無意味さを表明しているという見解もある。
なお、『マイスタージンガー』は第二次世界大戦により規模縮小を余儀なくされたバイロイト音楽祭において、1943年・1944年の唯一の演目であった。

20-21世紀ドイツの音楽学者ヴェルナー・ブライクによれば、『ニュルンベルクのマイスタージンガー』を特徴づける要素は、「全音階法」、「コラール」、「対位法」の3つである。これらは作品に古めかしい印象を与えることに役立っているが、それぞれについて見れば、必ずしも単純ではない。

全音階法は、下記#第1幕への前奏曲の節で述べるとおり、素朴なものではなく、きわめて人工的に処理されている。 コラールは、ホモフォニックな書法がコラールを連想させるものとなっているが、実在するルター派教会のコラールは引用されず、すべてワーグナーの創作である。 また、対位法は本来、主題の転回や逆行、拡大、縮小といった技法を徹底して用いるものだが、ここではそうした厳格さはない。例えばフーガにしても本格的なものとはいえず、あくまでフーガを想起させるものとして登場するのである。
とはいえワーグナーは、本作をバッハの系譜に連なるものとして認識していた。「それでは、これからバッハの応用を弾いてみよう」といって、ワーグナーは第1幕への前奏曲をピアノ連弾で演奏したことがあった。バッハの影響は、フランス風序曲の様式を援用した前奏曲、器楽を挿入したコラール、「コラール幻想曲」の構造に基づく「殴り合い」のフーガ、そして、複数の声部の対位法的な処理に見ることができる。

第1幕への前奏曲は、4つの構成部分からなり、前作『トリスタンとイゾルデ』と比べると、一見穏やかな全音階法、古典的なソナタ形式に回帰している。 また、この4部分については、ソナタ形式に対応すると同時に、交響曲の4つの楽章にも対応しているという形式面での多重性も指摘されている。

ニュルンベルクのマイスタージンガー
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