ラヴェル:クープランの墓 Le Tombeau de Couperin

ピアノ:Maria Pyatakova Guray

『クープランの墓』(フランス語: Le Tombeau de Couperin)は、フランスの作曲家モーリス・ラヴェルが1914年から1917年にかけて作曲したピアノ組曲。「プレリュード(前奏曲)」、「フーガ」、「フォルラーヌ」、「リゴドン」、「メヌエット」、「トッカータ」の6曲から成り、それぞれが第一次世界大戦で戦死した知人たちへの思い出に捧げられている。ラヴェル最後のピアノ独奏曲でもある。1919年に4曲を抜粋した管弦楽版が作曲者自身により作られた。

原題中の Tombeau (トンボー)はフランス語で「墓石・墓碑」を意味する一般名詞ではあるが、音楽用語としてはバロック時代のフランス音楽に特徴的な「故人を追悼する器楽曲」を指すものである(トンボーを参照)。バロック音楽の分野では Tombeau は「墓」とは訳さず「トンボー」とするのが一般的である。

作曲の経緯
フランス北部リヨン=ラ=フォレにある、ラヴェルが1917年にクープランの墓を作曲し、1922年に展覧会の絵の編曲を行った場所 『クープランの墓』は、フランスでは作曲家フランソワ・クープランに代表されるバロック音楽の時代の形式を借りた、第一次世界大戦で犠牲になったラヴェルの知人たちを忍ぶ追悼または追想の曲である。

1914年の第一次世界大戦には、フランスは勃発後まもなくロシアからの要請とドイツからの宣戦布告により巻き込まれた。愛国心の強かったラヴェル自身も野戦病院の病院車の運転手として従軍したが、1916年健康を害したことでパリに戻り、1917年除隊した。この年にラヴェルは母親を失い、また大戦により知人らを失った。そうして作曲されたこの組曲の各曲は、大戦で散った友人達に捧げられた。

1918年にデュラン社から出版。初版譜の装画と題字はラヴェル自身が筆を執った。1919年4月11日に、サル・ガルヴォーにおける独立音楽協会(SMI)の演奏会において、ピアニストのマルグリット・ロンによって初演された。ロンは、最終曲「トッカータ」を捧げられた音楽学者のジョゼフ・ドゥ・マルリアーヴと結婚していたが、戦争未亡人となっていた。

初演の後、ラヴェルを嫌う批評家が新聞に「ラヴェル作曲の『クープランの墓』は大変結構だった。だがクープラン作曲の『ラヴェルの墓』だったらもっと結構だったに違いない」と書いたというエピソードが残っている。

1. プレリュード(Prelude)
ジャック・シャルロ中尉 (マ・メール・ロワのピアノ独奏版の編曲者) に捧げられている。ヴィフ(Vif:活発に)、ホ短調。12/16拍子。古典的な組曲の冒頭に置かれる前奏曲を範として書かれ、16分音符の無窮動的な動きが全体を支配する。頻出する装飾音符(モルデント、プラルトリラー)は拍頭で奏されるよう記譜されている。

2. フーガ(Fugue)
ジャン・クルッピ少尉に捧げられている (ラヴェルは彼の母親に「スペインの時」を捧げている)。アレグロ・モデラート(Allegro Moderato:中庸の快活さで)、ホ短調。最後には3声がみられる。4/4拍子。フーガ形式。独特なリズムの主題を持ち、途中から反行フーガがみられる。

3. フォルラーヌ(Forlane)
ガブリエル・ドゥリュック中尉 (サン=ジャン=ド=リュズ出身のバスク画家) に捧げられている。フォルラーヌとは北イタリアを起源とする古典的舞曲のこと。ラヴェルは1914年にフランソワ・クープランの『王宮のコンセール』のフォルラーヌの編曲を行っており、この曲にはその明らかな影響が見られる。アレグレット(Allegretto:やや快活に)、ホ短調。演奏所要時間がこの組曲中一番長い。6/8拍子。ロンド形式。

4. リゴドン(Rigaudon)
ピエール&パスカルのゴーダン兄弟 (ラヴェルの幼なじみ) に捧げられている。アッセ・ヴィフ(Assez Vif:十分に生き生きと)、ハ長調。2/4拍子の三部形式で、中間部は速度を落としてハ短調に転調する。リゴドンはプロヴァンス地方に由来する活発な舞曲で、17世紀に流行した。トッカータ同様、演奏者によって演奏速度が大きく異なっており、速く弾く奏者と遅めに弾く奏者との演奏所要時間の差は最大で約1分の開きが出ることもある。

5. メヌエット(Menuet)
ジャン・ドレフュス (ラヴェル除隊後の家主) に捧げられている。アレグロ・モデラート、ト長調。3/4拍子。三部形式。

6. トッカータ(Toccata)
先述の通り初演者であるマルグリット・ロンの夫、ジョゼフ・ドゥ・マルリアーヴ大尉に捧げられている。2/4拍子、ロンド・ソナタ形式。最初ホ短調であるが、94小節目で嬰ニ短調に転調。144小節目でホ短調に戻り、217小節目でホ長調に転調する。トッカータらしく速く、ピアニスティックな曲で最後に壮大な盛り上がりを見せて一気に曲は終わる。同音連打を多用したピアノ曲の最高峰のひとつに位置づけられ、ラヴェルの作曲技法が惜しむことなく注ぎ込まれている。

技術的にも困難であり、多彩な表現が盛り込まれているために、演奏者によってさまざまな解釈がなされており、演奏速度の設定からもそれを垣間見ることができる。例えば、ラヴェル自身から直接そのピアノ作品の解釈について学んだヴラド・ペルルミュテールの録音では?=約132で演奏されている。今日ではラヴェルの譜面上の指定である=144以上の高速で演奏するピアニストも多いが、これには相当のテクニックが必要とされる。

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