マーラー:交響曲 第8番 変ホ長調「千人の交響曲」から第1部、第2部の抜粋

指揮: 若杉 弘 Hiroshi Wakasugi
NHK交響楽団 第1161回定期公演(1992/01/16)
晋友会(混声合唱)、東京放送児童合唱団(児童合唱)
佐藤しのぶ/松本美和子/三縄みどり(ソプラノ) 伊原直子/永井和子(アルト)
伊達英二(テノール)、木村俊光(バリトン)、高橋啓三(バス)

 

交響曲第8番(ドイツ語: Symphonie Nr. 8)変ホ長調はグスタフ・マーラーが作曲した8番目の交響曲。

マーラーの「ウィーン時代」の最後の作品であり、同時にマーラー自身が初演し耳にすることのできた最後の作品となった。 第8番の編成は、交響曲第7番までつづいた純器楽から転換し、大規模な管弦楽に加えて8人の独唱者および複数の合唱団を要する、巨大なオラトリオあるいはカンタータのような作品となっている。構成的には従来の楽章制を廃した2部構成をとり、第1部では中世マインツの大司教ラバヌス・マウルス(776?~856)作といわれるラテン語賛歌「来たれ、創造主たる聖霊よ」、第2部では、ゲーテの戯曲『ファウスト 第二部』の終末部分に基づいた歌詞が採られている。音楽的には、音階組織としての調性音楽からは逸脱していないが、大がかりな編成、極端な音域・音量、テキストの扱いなどに表現主義の特質が指摘されている。

演奏規模の膨大さから『千人の交響曲』(Symphonie der Tausend )の名で広く知られているが、これはマーラーによる命名ではなく、初演時の興行主であるエミール・グートマンが話題づくりのために付けたものである。マーラー自身はこの呼び名を認めておらず、嫌悪していた。
この初演については後述するが、マーラーの自作演奏会として生涯最大の成功を収めたと同時に、近代ヨーロッパにおいて音楽創造が文化的事件となった例のひとつとなった。

第8番はマーラーの作品中最大規模であるだけでなく、音楽的にも集大成的位置づけを持つ作品として、自他ともに認める存在であった。音楽作品としてきわめて肯定的かつ信仰や生に対する壮大な賛歌であり、マーラーはこの作品を妻のアルマに献げている。グスタフ・マーラーが自身の作品を他者に献呈したのは、これが唯一である。

声楽
独唱(第2部では()内の役割が当てられている) 第1ソプラノ(罪深き女)
第2ソプラノ(懺悔する女)
第3ソプラノ(栄光の聖母)
第1アルト(サマリアの女)
第2アルト(エジプトのマリア)
テノール(マリア崇敬の博士)
バリトン(法悦の教父)
バス(瞑想する教父)
児童合唱 1
混声合唱 2

楽曲構成
2部構成による。第1部は教会音楽的かつ多声的であり、第2部は幻想的かつホモフォニー的であるが、両部は主題的に緊密に構成され、統一された印象を与える。演奏時間は約80分。

第1部 賛歌「来れ、創造主なる聖霊よ」 (歌詞はラテン語) アレグロ・インペトゥオーソ 変ホ長調 4/4拍子 ソナタ形式
オルガンの重厚な和音につづいて合唱が「来たれ、創造主たる聖霊よ」と歌う。これが第1主題で、主音から4度下降し、7度跳躍上昇する音型は、全曲の統一的な動機となっている。交響曲第7番の第1楽章第1主題(主音から4度下降し、6度跳躍上昇)との関連も指摘されている。男声合唱によって推進的な経過句が現れる。第2主題は落ち着いた旋律をソプラノ独唱が「高き恵みをもって満たしたまえ」と歌い、各独唱者による重唱となる。小結尾では、やや懐疑的な旋律や高みを目指すような動機も現れる。

展開部は懐疑的な旋律で静かに始まるが、やがて合唱が第1主題の動機に基づく新しい旋律を勢いよく歌い始める。二重フーガなど対位法的な展開を駆使してきびきびとかつ壮麗に進み、圧倒的な頂点を築いたところで第1主題が再現する。
コーダは管弦楽のみで第1主題の動機を扱うが、児童合唱が入ってきて第1主題の動機に基づいて「主なる父に栄光あれ」と歌い、Gloriaの歓呼で高まっていく。第1主題の動機を繰り返して白熱し、華々しい金管の響き、高揚をつづける合唱で結ばれる。

第2部 ゲーテ『ファウスト 第2部』から最後の場
長大な第2部は、旧来の交響曲の構成に則り、アダージョ、スケルツォ、終曲+コーダという部分に分けて考えることができる。
第1の部分は変ホ短調のポコ・アダージョで、管弦楽と合唱による自然描写の部分とそれにつづく「法悦の教父」(バリトン独唱)、「瞑想する教父」(バス独唱)までである。
第2の部分ではアレグロとなり、天使たち(児童合唱)が登場し(譜例7)、「マリア崇敬の博士」(テノール独唱)を加えて歌われる。
第3の部分では、テンポをアダージッシモに落とし、管弦楽のみでハルモニウムの持続音とハープの分散和音を伴い静かに歌われる旋律に合唱が入ってくる。その後、「罪深き女」(ソプラノ独唱)、サマリアの女(アルト独唱)、エジプトのマリア(アルト独唱)が順次登場し、グレートヒェン(ソプラノ独唱)の短い歌唱を挟んで、先の3人による重唱となる。次いでグレートヒェンが「懺悔する女」として第1部の第2主題、ついで第1主題を回想し、ここでひとつの頂点を築く。

以下はコーダと見られ、「栄光の聖母」(ソプラノ独唱)、「マリア崇敬の博士」(テノール独唱)と高揚したところで、4度下降、7度上昇の動機(第1楽章第1主題)が金管によって現れる。 管の高域や鍵盤楽器の分散和音で静まっていくと、「神秘の合唱」がきわめて静かに歌い始められ、次第に高みに登りつめてゆく。頂点に達したところで、第1部の第1主題が金管の別働隊によって完全に姿を現し、オルガン、全管弦楽の壮大な響きに支えられて金管が高らかに第1部第1主題の動機を吹奏して全曲を結ぶ。

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