マーラー: 交響曲 第2番 ハ短調 「復活」 "Auferstehung"

指揮: 小林 研一郎 Kenichiro Kobayashi
ハンガリー国立交響楽団 Hungarian State Orchestra
ハンガリー国立合唱団 Hungarian National Choir & 武蔵野合唱団 Musashino Chor
ソプラノ:菅 英三子 Emiko Suga  アルト:伊原 直子 Naoko Ihara
1998.11.27 Tokyo. Japan Live

交響曲第2番ハ短調は、グスタフ・マーラーが作曲した交響曲。「復活」(Auferstehung)という標題が付されるのが一般的である。これは、第5楽章で歌われるフリードリヒ・クロプシュトックの歌詞による賛歌「復活」(マーラー加筆)からとられたものだが、マーラーがこの題名を正式に用いたことはない。

1888年から1894年にかけて作曲された。オルガンやバンダ(舞台外の楽隊)を含む大編成の管弦楽に加え、第4楽章と第5楽章に声楽を導入しており、立体的かつスペクタクル的な効果を発揮する。このため、純粋に演奏上の指示とは別に、別働隊の配置場所や独唱者をいつの時点でステージに招き入れるか、合唱隊をいつ起立させるかなどの演出的な要素についても指揮者の考え方が問われる。

第4楽章では、マーラーが1892年に完成した歌曲集『子供の不思議な角笛』の歌詞を採用している。つづく交響曲第3番、交響曲第4番も『子供の不思議な角笛』の歌詞を使っていることから、これらを「角笛」3部作として括ることがある。演奏時間約80分。
 
1895年3月4日、声楽の入らない第1楽章から第3楽章までをベルリン・フィルハーモニー管弦楽団によって初演。演奏会全体の指揮者はリヒャルト・シュトラウスであるが、この曲については「作曲者指揮による」との断り書きがあり、マーラーが指揮したものと見られる。その夏にはマーラーはシュタインバッハにおいて交響曲第3番の作曲に取りかかった。全曲初演は1895年12月13日、同じくマーラー指揮、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団による。マーラー35歳のときである。膨大な管弦楽に独唱者、合唱隊をくわえるため多額の資金を必要としたので、マーラーは私財を投じて借金をし、チケットを友人や音楽学校の生徒に売りつけるなどかなりの無理をしたが、その甲斐あって初演は大成功となった。
 
第1交響曲が初演された1896年3月16日の演奏会では、第1交響曲の全楽章に先立ち、「第2番」の第1楽章に再び「葬礼」の標題を付けて演奏した。「葬礼」の標題を使用したのは、これが最後と見られる。1895年初演のときのブルーノ・ワルターの感想「・・・私の回想の中で最も素晴らしい物の一つです。私は終楽章の偉大なるラッパで世の終わりを告げた後に、復活の神秘的な鳥の歌を聴いた時の息のつけぬような緊張、そこへ続く合唱の『汝よみがえれ。』に導かれる部分での深い感動は、今でも耳にはっきり残る。・・・作品の大きさ、独創さ、マーラーの個性の強さなどの印象が余りにも深く偉大であったので、この日から、彼は、作曲者として最大の地位をもって迎えられたのです。」
 
楽曲構成
スケルツォ楽章を中心とした対称的な5楽章配置が見られ、マーラーの交響曲として代表的な構成である。演奏時間は通常80分前後だが、速い演奏だとオットー・クレンペラー指揮の1950年のシドニー交響楽団とのライブ録音で68分、遅い演奏だと同指揮者のニュー・フィルハーモニア管弦楽団との録音で99分というのが有名である。

第1楽章 アレグロ・マエストーソ まじめで荘厳な表現で一貫して
 ハ短調 4/4拍子 ソナタ形式
弦のトレモロの上に、低弦が荒々しい第1主題を出す。葬送行進曲風に進行し、徐々に熱気を帯びて金管やシンバルを加えて発展する。経過句の後、第2主題がホ長調でヴァイオリンで提示される。憧憬に満ちた祈るような順次上行が特徴的だが、第1主題に遮られ小結尾に入る。ホルンと低弦による3連符を含む特徴的なリズムを経て、金管がコラール風の主題を奏して第1主題と絡めて発展する。ホルンと木管が残り、葬送行進曲風の曲想に戻り、ハープが残って提示部が閉じられる。

展開部は大きく2つに分かれ、前半はヴァイオリンが美しく第2主題を奏でて開始される。始まって小結尾やリズム動機を扱う。再び第2主題がフルートやヴァイオリン・ソロに現れると安らかになって静まる。それが第1主題の動機により打ち破られるところから後半に入る。ここでは主に第1主題を扱う。ホルンにコラール風な旋律が現れるが、これは終楽章で重要な役割を果たすことになる。小結尾の動機で叩きつけるようにクライマックスを築いて展開部が閉められる。

再現部はほぼ型どおりだが、オーケストレーションや進行は変えられている。第1主題は発展が省略されて経過句に遮られ、そのまま第2主題が続いて消え入るように再現部が終わる。コーダは小結尾の葬送行進曲で暗鬱に静まっていくが、トランペットが半音下降して長和音から短和音に移行(後の交響曲第6番のモットーに通じる)し、最後は半音階的に崩れ落ちるように終わる。
この第1楽章では拍子変更が全くなく、4/4拍子で貫かれている。 演奏時間は19~25分程度。

第1楽章の後に「少なくとも5分間以上の休みを置くこと」という指示があるが、現実的にはこの指示通りになされることは少ない。第1楽章の後にソリスト、合唱を入場させて時間をとることもある。この指示は指揮者を信用しないというマーラーの強い信念がかかわる。
第2楽章 アンダンテ・モデラート きわめてくつろいで、急がずに
 変イ長調 3/8拍子 ABABAの形式
主部は弦による舞曲風な主題で、落ち着いた表情と伸びやかな雰囲気を持つ。中間部は3連符の弦の刻みに乗って管楽器が歌う。ロ長調だが短調に傾いている。2回目の主部はチェロのおおらかな対旋律が加えられており、中間部の再現はオーケストレーションが厚くなっているなど、単純な繰り返しが避けられている。最後の主部の再現では、弦楽器のピチカートとなる。 演奏時間は9~12分程度。
 
第3楽章 スケルツォ 静かに流れるような動きで
 ハ短調 3/8拍子 三部形式
主部はティンパニの強打につづいて、ヴァイオリンがなめらかに上下する主題を出す。中間部では、低弦が歯切れのよいリズムを刻み、管楽器が快活な主題を奏する。主部の再現はより自由に進行する。結尾では、中間部の主題が現れ、爆発的に盛り上がったところで終楽章を予告する。 『子供の不思議な角笛』の歌曲「魚に説教するパドヴァの聖アントニウス」と同じ材料で作曲されており、両者は双生児のような関係にある。 また、中間部の主題は、ウィーン音楽院でのマーラーの親友で、近年再評価が進んでいるハンス・ロットの交響曲第1番ホ長調第3楽章の第1主題からの引用の可能性が指摘されている。 第3楽章から第4楽章、さらに第5楽章まで切れ目なく演奏される。 ルチアーノ・ベリオの『シンフォニア』第3楽章はこの楽章をベースにして、古今東西のクラシック音楽をその上に引用している。 演奏時間は9~12分程度。
 
第4楽章「原光」 きわめて荘重に、しかし素朴に
 変ニ長調 4/4拍子 三部形式
「赤い小さな薔薇よ」とアルト独唱が歌う。舞台外の金管がコラール風の間奏を添える。中間部で転調し、独唱にヴァイオリン・ソロ、木管が絡む。『子供の不思議な角笛』の第7曲「原光」(Urlicht)からとられた。 演奏時間は4~6分程度。
 
第5楽章 スケルツォのテンポで、荒野を進むように
 ヘ短調 - 変ホ長調 4/4拍子 拡大されたソナタ形式
演奏時間にして全体の4割以上も要する長大な楽章で、マーラー流に拡大されたソナタ形式で構成されている。第4楽章が終わるとそのまま開始され、管弦楽の強烈な響きのなかで、金管が叫ぶような第1主題を出す。最弱音のホルンがハ長調で明るい動機を示し、ホルンの「呼び声」のような動機がこだまする。第2主題は「第2主題部」ともいえるもので、前半に木管がコラール(ベースはグレゴリオ聖歌の「怒りの日」)を出す。これは第1楽章ですでに示されていたもの。後半はトロンボーン、さらにトランペットが引き継ぐが、これが「復活」の動機と考えられている。しばし音楽は穏やかになるが、ヴァイオリンのトレモロの上に、フルートとイングリッシュ・ホルンが不安げな動機を示す。コラールと「復活」動機、不安げな動機が繰り返され、切迫する。 展開部は、第1主題の叫びで開始される。コラール主題が加わってきて行進曲調となり、勇壮華麗に展開される。頂点で急激に静まると、不安げな動機が金管に出て、トランペットのファンファーレ的な音型を繰り返しながら今度はストレッタ的に急迫していく。第1主題がすべてを圧するかのように出ると、再現部に入ったことになる。 第1主題につづいて出るホルン動機は、チェロの柔らかい音型に変奏されている。ホルンの呼び声が舞台外にこだましていくと、フルートとピッコロが夜鶯を表す。呼び声とトランペットのファンファーレが交わされる。オーケストラが沈黙したところで、合唱がクロプシュトックの「復活」賛歌を神秘的に歌い始める。合唱はユニゾンの扱いが多く、印象的である。オーケストラはホルン動機に基づく間奏で応え、合唱、さらにオーケストラとなる。トランペットがホルン動機の完全な姿を示す。アルト・ソロが不安げな動機に基づいて歌い、男声合唱が「復活」動機を劇的に示す。ソプラノ・ソロとアルト・ソロの二重唱となる。ここでは第4楽章の後半の動機も扱い、高まっていく。合唱がホルン動機を繰り返して高揚し、オルガンも加えて壮大に「復活」動機を歌い上げる。ホルン動機に基づく管弦楽の崇高な響きで全曲を締めくくる。 演奏時間は33~38分程度。

交響曲第5番 (マーラー)

inserted by FC2 system