フォーレ: ピアノ三重奏 ニ短調 作品120 より 第2楽章 Andantino

ピアノ( ベヒシュタイン Bechstein ): ニコラス・アンゲリッシュ Nicholas Angelich
ルノー・カピュソン Renaud Capucon (violin) and Gautier Capucon (cello)
Live at London's Wigmore Hall on April 30th, 2013

ピアノ三重奏曲(仏: Trio pour piano, violon et violoncelle) ニ短調作品120は、近代フランスの作曲家ガブリエル・フォーレ(1845年 - 1924年)が作曲したピアノ、ヴァイオリン、チェロのための室内楽曲。全3楽章からなり、演奏時間は約20分。

フォーレの創作期間はしばしば作曲年代によって第一期(1860年 - 1885年)、第二期(1885年 - 1906年)、第三期(1906年 - 1924年)の三期に分けられる。 ピアノ三重奏曲は、このうち第三期に属するとともにフォーレ最晩年の作品であり、高齢による肉体の衰えと絶え間ない疲労に苦しみながら作曲された。

フォーレは1921年末までにチェロソナタ第2番(作品117)及び自身最後の歌曲集となった『幻想の地平線』(作品118)につづいてこれも最後の夜想曲となった夜想曲第13番(作品119)を完成しており、ネクトゥーは、夜想曲第13番の完成とともにフォーレの生涯におけるもっとも重要な時期は幕を閉じたとしている。翌1922年以降は容易に筆が進まず、作品の質は保たれたものの、その数は著しく減少した。 没年の1924年まで最後の3年間に作曲されたのは、このピアノ三重奏曲(1923年)と、未完成の弦楽四重奏曲しかない。
また、この作品はフォーレ自身が格別の評価を下していたラヴェルのピアノ三重奏曲(1914年)とともに、当時のフランスのピアノ三重奏曲を代表するものといえる。

音楽

急・緩・急の3つの楽章からなり、全体に線の強い表出を特徴とする。簡潔に徹した書法はこの時期のフォーレの他の作品とも共通したものである。
フォーレ自身はこの作品を控えめに「小さなトリオ」と呼んだ。フォーレの弟子フローラン・シュミットは、「これこそ音楽だ。そして音楽以外の何ものでもない。ラモーのようにほっそりとして、バッハのように澄み渡って力強く、また穏やかに訴えかけるところはフォーレ自身だ。」と述べている。

各楽章について

最初の二つの楽章は比較的穏やかで、淡彩の絵にも似た哀調を帯びている。
第2楽章は歌謡的な緩徐楽章であり、主題間の対比や結合に精緻な工夫が認められる。 とくにこの楽章の美しさについては、「並外れて美しい第1主題」(クライトン)、「至上の美しさ」、「フォーレのもっとも純粋な霊感のひらめき」、「弦楽器が奏でる恋人同士のような語らいは、この世のものとは思えない」(いずれもネクトゥー)、「高雅な抒情味がくまなく全体に及んで香り立つ、魅惑的な音楽」(平島)といった賛辞が寄せられている。

第2楽章 アンダンティーノ ヘ長調、4/4拍子、三部形式。
ピアノのゆるやかな和音連打による前奏に乗って、ヴァイオリンとチェロが親しく語り交わすような第1主題を示す。 この優しく揺れる旋律の伴奏和音が分散型に変わると、ピアノに5度跳躍下行を特徴としたニ短調の経過句が出る。
ネクトゥーはこの部分について、「音楽家が自分でも当惑するような感覚の領域、言い換えれば崇高さともいえるような領域に足を踏み入れたときに湧き起こる強い羞恥心によるもの」とし、フォーレの長男エマニュエル・フォーレ=フレミエの「フォーレは親密な演奏会の最中に聴衆が感動していることに気づくと、突然、時には驚くほどの冗談を飛ばして、その場の雰囲気を和らげた」という回想を引用している。
中間部では、カンタンド・エスプレッシーヴォでうら悲しさを漂わせた第2主題がピアノに現れる。 この旋律は、1920年から1921年にかけて書かれたピアノ五重奏曲第2番とチェロソナタ第2番のアンダンテ楽章と同様に、コラール様式で書かれている。
ときおりため息を漏らすのみだったヴァイオリンとチェロがこの旋律をひっそりと受け継ぎ、転調を重ねながら上昇してゆく。ピアノに第1主題が回帰して再現部となり、経過句はヘ短調をとる。弦を加えた中間部の回想から次第に高まってコーダに入り、二つの主題が重ねられてヘ長調の平安のうちに終わる。

inserted by FC2 system