ドビュッシー:交響詩『海』"La Mer"

指揮:アラン・アルティノグリュ Alain Altinoglu
hr-Sinfonieorchester
hr-Sinfoniekonzert - Alte Oper Frankfurt, 22. September 2023

I. De l’aube a midi sur la mer. Tres lent 00:00
II. Jeux de vagues. Allegro 09:06
III. Dialogue du vent et de la mer. Anime et tumultueux 16:35

《『海』管弦楽のための3つの交響的素描》(うみ、フランス語: La Mer, trois esquisses symphoniques pour orchestre )は、フランスの作曲家クロード・ドビュッシーが1903年から1905年にかけて作曲した管弦楽曲である。副題の付いた3つの楽章(第1楽章「海上の夜明けから真昼まで」-第2楽章「波の戯れ」-第3楽章「風と海との対話」(1. De l'aube a midi sur la mer-2. Jeux de vagues-3. Dialogue du vent et de la mer ))で、演奏所要時間は23分~24分。
作品は、楽譜を出版したデュラン社の経営者ジャック・デュラン(Jacques Durand)に献呈されている。

着想
1905年にフランスで出版された『海』初版のオーケストラスコア の表紙デザインには、ドビュッシー自身の希望により、葛飾北斎の『冨嶽三十六景』の1つ「神奈川沖浪裏」(正確にはその左半分の大きな波の部分)が用いられた[8]。 ドビュッシーは若い頃、後に オーギュスト・ロダンの愛人となるカミーユ・クローデルと親しくしており、彼女から北斎の版画や日本美術についてレクチャーを受けたとされる。また、彼の自室にはオディロン・ルドンの石版画やカミーユ・クローデルの彫刻などとともに北斎の「神奈川沖浪裏」が飾られていたとされ、実際にそのことを示す写真も残されている。

これらの事実から、ドビュッシーの『海』は「北斎の浮世絵にインスピレーションを得て作曲された作品」として紹介されることがあるが、実際には創作における関連性を明確に裏付ける史料の存在は確認されておらず、あくまでも憶測の域を出ない。

また、カミーユ・モクレール(英語版)が1893年に発表した中篇小説『サンギネール諸島付近の美しい海』も、『海』との関連が指摘されることがある。 なぜなら『海』の第1楽章「海上の夜明けから真昼まで」には、構想の初期段階から完成間際までの約1年半にわたり、モクレールの小説と全く同名の「サンギネール諸島付近の美しい海」という副題がつけられていたからである。ドビュッシーはモクレールとの面識があった上、同小説が掲載された『エコー・ド・パリ』紙も当時購読しており、この小説の存在を知っていた可能性は高い。

小説の筋書きは、地中海で嵐にあった船乗りが架空の3つの島々を順に訪れるというもので、その行程は「若さ」や「生命」が「老い」や「滅び」に向かう様子を寓意的に表現している。絶望的な、いわゆる「バッドエンド」で終わる物語であり、ドビュッシーの作品とは全体の色調がかなり異なっている。

両作品の関係については、いずれも全体が三部構成をとっており、時間の推移を表現しているという共通点が見られることから、ドビュッシーが小説から何らかのインスピレーションを得たとする説がある一方、「血を流すことを好む、残忍な」を意味する「サンギネール」(Sanguinaire)と、「美しい」という言葉のギャップの面白さから選ばれたに過ぎないとする説もある。いずれにせよ、北斎の場合と同様、それを客観的に検証できる史料は存在せず、やはり憶測の域を出ない。

ドビュッシーは多くの書簡や著述を残しているが、『海』については多くを語っていないため、北斎やモクレールの作品との関連に限らず、創作の核心部分は秘められたままになっている。

第1楽章『海上の夜明けから真昼まで』。
低音の「ロ」音の上に、ハープが完全5度(「嬰ヘ」音)、長6度(「嬰ト」音)の響きを作り出し、チェロがAを提示する。序奏部はロ短調を示す記号が記されているが音階の第3音を欠いており調性は曖昧である。やがてBが提示されるが、「ハ」音から始まるこの主題はさらに調性を曖昧なものにしている。序奏部はBの提示を中心にしたアーチ型の構造であり、最後の部分でややテンポを速め、変ニ長調の主部に入る。主部は、木管による主要主題、ホルンによる第35小節目からの主題を軸とした前半と、4部に分かれたチェロによって奏される動的な主題を軸とした後半に大きく二分されるが、いずれのセクションにもA、Bが登場することによって楽曲としての統一が図られている。コーダでは第132小節目にBから派生したコラール風の主題が現れ、Aから派生した音型と主部の主要主題とが同時に奏されるクライマックスに至る。楽章の最後は長6度(「変ロ」音)が付加された変ニ長調の主和音で締めくくられるが、「長6度の響き」はすでに楽章の開始段階で準備されていたものである。

第2楽章「波の戯れ」
一種のスケルツォ楽章である。8小節の短い導入に続き、全音音階的な主要主題がコーラングレによって提示される。第2楽章ではこの主題を中心として、第36小節目からのトリルを伴った弦楽器による主題、第62小節目からの主題(第50小節目からのホルンによって奏される経過句から派生したもの)、第123小節目に登場するトランペットの動機が、それぞれ独自に変容しながら複雑に組み合わされる。こうしたこの楽章の性格を、作曲家・指揮者のピエール・ブーレーズは「絶えず一新される形式と呼んだ。

第3楽章「風と海の対話」
ナクソス・クラシック・キュレーション - 準・メルクル指揮フランス国立リヨン管弦楽団による演奏。ナクソス・ジャパン公式YouTube。 ティンパニとバスドラムの pp のロールに始まり、チェロとコントラバスが、半音階で上行する3連符を含む主要動機を提示する(下の譜例)。続いて、第25小節目でコーラングレとクラリネットがAを、第31小節目からはトランペットがBを提示する。第56小節目からは冒頭の主要動機のリズムに乗って木管群が第3楽章の主要主題を提示し、音楽はA、Bとの相互作用を繰り返しながら展開していく。途中、第1楽章のコーダで登場したコラール風の主題が、第133小節目からは p で、第259小節目からは f で現れる。2回目のコラール風主題の後、A、Bに基づくコーダとなり、 fff による「変ニ」音で全曲を締めくくる。 バラケは、この楽章が対照的な2つの「力」(「混沌とした運動」、「歌う旋律」)の二元性に基づく構造であることを示唆している。

海 (ドビュッシー)

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