ブラームス:交響曲 第3番 ヘ長調 作品90 

指揮:オトマール・スウィトナー Otmar Suitner
演奏: NHK交響楽団 NHK Symphony Orchestra 1989

ヨハネス・ブラームスの交響曲第3番ヘ長調作品90(原題(ドイツ語):Sinfonie Nr. 3 in F-Dur op. 90)は、1883年5月から10月にかけて作曲された。ブラームスの交響曲の中では演奏時間が最も短く、新鮮かつ明快な曲想で知られる。初演者ハンス・リヒターは、「この曲は、ブラームスの『英雄』だ。」といったという。しかし、当のブラームスはこの曲の標題的な要素についてはなにも語っていない。両端楽章で英雄的な闘争をイメージさせる部分もあるが、その根底を流れているのは、ロマン的な叙情や憂愁と考えられる。

第1楽章 アレグロ・コン・ブリオ ヘ長調。6/4拍子。ソナタ形式。
冒頭、管楽器のモットーにつづいて、ヴァイオリンがこれに覆い被さるように第1主題を強烈に示す。モットーの持つヘ短調の響きが、表情に陰りを与えている。この主題は、ほぼ同じ形の動機が一瞬登場するシューマンの交響曲第1番「春」の第2楽章や、交響曲第3番「ライン」の第1楽章との関連を指摘されることもある。静かな経過句を経て9/4拍子となり、クラリネットが艶美に踊るような第2主題をイ長調で出す。この主題は、ワーグナーの歌劇『タンホイザー』の「ヴェーヌスベルクの音楽」と共通点があるとも指摘される。主題の後には第2交響曲の基本動機も顔を出す。展開部は情熱的に始まり、低弦が第2主題を暗い嬰ハ短調で奏する。静まると、ホルンがモットーに基づく旋律を大きく示す。第1主題の動機を繰り返しながら高まって、再現部に達する。コーダでは、モットーと第1主題が戦闘的に絡み合うが、大きな波のような旋律に収拾されて静まる。モットーが響くなか、第1主題が消え入るように奏されて終わる。
第2楽章 Andante ハ長調。4/4拍子。三部形式あるいは変形されたソナタ形式と見られる。
主部はクラリネットとファゴットのひなびた旋律。各フレーズの終わりでモットーが示される。この主要主題に含まれる、2度をゆらゆらと反復する動機も目立つ。中間部では同じくクラリネットとファゴットが新たにコラール風の旋律を奏するが、予言めいた雰囲気をもつ。ヴァイオリンの新しい旋律に受け継がれてから、展開風な経過部に入る。主要主題の断片を奏して再現部を導く。コーダでも中間部の主題が少し顔を見せ、主要主題が静かにクラリネットで奏されてから曲が終わる。
第3楽章 Poco allegretto ハ短調。3/8拍子。三部形式。
木管のくぐもったような響きの上に、チェロが憂愁と憧憬を湛えた旋律を歌う。全曲でもよく知られる部分である。中間部は変イ長調で、木管の夢見るような柔らかな表情が特徴的。主部の旋律はホルンによって再現される(なお、この楽章で使用されている金管楽器はホルン2本のみである)。
第4楽章 Allegro - Un poco sostenuto ヘ短調-ヘ長調。2/2拍子。自由なソナタ形式。
ファゴットと弦が第1主題を示す。弱いが暗雲が立ちこめるような雰囲気を持つ。トロンボーンの同音反復に導かれて、第2楽章のコラール風動機が奏されるが、嵐の前の静けさを思わせる不吉なものとなっている。直後に、音楽は激しくなり情熱的にすすむ。
第2主題はハ長調、チェロとホルンによる三連符を用いた快活なものでイ短調、ト長調、変ロ長調と転調を繰り返す。小結尾はハ短調で再び闘争となる。展開部は第1主題を専ら扱うもので第1主題の再現を兼ねている。ゆえにここから再現部と見なすこともある。まず第1主題が木管で現れる。しばらく第1主題が細分化して扱われるが、これが展開的に発展して大きな頂点を作り上げる。この頂点で再現部に入る。コラール風の動機が打ち破るように強奏で繰り返され、同時に第1主題も弦で自由に再現される。ハ短調から半音ずつずり上がってヘ長調に達して第2主題の再現に入る。一転ヘ短調となるという、異様な効果を上げている。コデッタはほぼ型どおりの再現となっている。Un poco sostenutoのコーダに入ると、第1主題が表情を変えながら繰り返され、やがてヘ長調に転じる。モットーが現れ、弦の細かな反復する動きに乗って、コラール風の動機が示されるが、今度は空に架かる虹のように儚い。最後には第1楽章第1主題が回想され、静かに曲を閉じる。

音楽の森 ブラームス:交響曲第3番

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