ピアノ演奏:ウラディミール・ホロヴィッツ Vladimir Horowitz
『子供の情景』(独語:Kinderszenen)作品15は、ロベルト・シューマンの作曲したピアノ曲の代表作のひとつ。特に第7曲『トロイメライ』は名高い。
作曲は1838年に着手されたが、曲の大部分は2月から3月にかけて作られ、全曲の完成は4月まで要した。同年の3月19日にクララへ宛てた手紙の中で、「時々あなたは子供に思えます」という言葉の余韻の中で作曲に至ったという。そしてシューマンは30曲ほど作った小品の中から、12曲を選び出して『子供の情景』と名付けたという。シューマンの日記によると「トロイメライ」が2月24日に、「十分に幸せ」が3月11日にそれぞれ作曲されている。
シューマンは後に、『子供のためのアルバム』作品68や『子供のための3つのピアノソナタ』作品118などの子供の学習用のピアノ曲を作曲している。しかし作曲者本人の語るところによると、『子供の情景』はそれらの作品とは異なる「子供心を描いた、大人のための作品」である。
第1曲 | 見知らぬ国と人々について (Von fremden Landern und Menschen) ト長調、4分の2拍子。「異国から」とも。全体はA-B-Aのリート形式(または3部形式)による。左手内声はBACH音型が見られる |
第2曲 | 不思議なお話 (Kuriose Geschichte) ニ長調、4分の3拍子。「めずらしいお話」とも。16分音符による快活な曲。装飾音符の効果的使用や休符を挟む形での付点リズムによる躍動的部分とレガートで対位法的書法の部分の組み合わせによる |
第3曲 | 鬼ごっこ (Hasche-Mann) ロ短調、4分の2拍子。16分音符のスタッカートであるが、遊びに夢中になっている子供を表現しているという。テンポは4分音符=120でまとめられる。 |
第4曲 | おねだり (Bittendes Kind) ニ長調、4分の3拍子。第1曲の動機と同じ音程関係で開始される(ただしリズムは変えている)。 |
第5曲 | 十分に幸せ (Gluckes genug) ニ長調、4分の2拍子。「幸せいっぱい」「満足」とも。 |
第6曲 | 重大な出来事 (Wichtige Begebenheit) イ長調、4分の3拍子。付点リズムが特徴的な曲。第1曲の中間部冒頭の高声音型が含まれている。 |
第7曲 | トロイメライ(夢) (Traumerei) ヘ長調、4分の4拍子。作曲者のピアノ曲の中で最も有名なもののひとつ。各種楽器用に編曲も幅広い。中声部に複雑な和声進行をすることで幻想的な音響を形成するのは作者の常であるが、曲想と一致していて最も効果をあげた作品。4小節の旋律が上昇・下降するが、これは8回繰り返される。 |
第8曲 | 暖炉のそばで (Am Kamin) ヘ長調、4分の2拍子。「炉端で」とも。第7曲と同じくハ音からヘ音の4度跳躍で開始するが、主題を構成する動機そのものが同じである。 |
第9曲 | 木馬の騎士 (Ritter vom Steckenpferd) ハ長調、4分の3拍子。シンコペーションと3拍目のアクセントによる。 |
第10曲 | むきになって (Fast zu ernst) 嬰ト短調、8分の2拍子。原題を直訳すると「ほとんど真面目すぎるくらい」である。前曲と同じくシンコペーションのリズムが旋律の形成の中核を担っている。 |
第11曲 | 怖がらせ (Furchtenmachen) ホ短調、4分の2拍子。「おどかし」とも。A-B-A-C-B-Aの6つの部分からなる。感傷的な旋律の遅い部分とスケルツォ風の速い部分が交互におかれる。 |
第12曲 | 眠りに入る子供 (Kind im Einschlummern) ホ短調、4分の2拍子。ゆったりとした動きで開始し、中間部はホ長調になる。なお第12曲はワーグナーの楽劇『ヴァルキューレ』の「眠りの動機」と類似していることが指摘されている。 |
第13曲 | 詩人は語る (Der Dichter spricht) ト長調、4分の4拍子。ここで言う詩人とは作曲者のことを指す。最後の7小節の和音は第1曲の中間部の右手の動機からとられている。 |