シューベルト:歌曲集「冬の旅」"Winterreise" 第6曲 ~ 第11曲

テノール:ペーター・シュライアー Peter Schreier
ピアノ:スヴャトスラフ・リヒテル Sviatoslav Richter

6. 溢れる涙 Wasserflut
自分の涙が雪に落ちて雪と小川に流れていったら、自分の思いのように恋人の家まで届いてゆくだろうと歌う。右手の三連符と左手の付点音符のリズムを一致させるべきか否かについて、ドイツのベーレンライター原典版の注釈には、一致させるべき、とあるが、一致させずに演奏する演奏者も少なくない。ジェラルド・ムーアは著書の中でデスモンド・ショウ=テイラーの「遅れがちな16分音符は旅人の疲れた重たい足取りを象徴している」との指摘を引用しており、本人も譜面通りに一致させずに弾くべきと主張している。
7. 川の上で Auf dem Flusse
凍った小川に、恋人の名前と出会った日付と別れた日付を刻む。孤独な作業をしながらも、この川の下を激しく流れる水のように、自分の心は燃えている。
8. 回想 Ruckblick
何かに追われるように、町から逃げていく。しかし、しばらくすると恋人への感情が湧き、町へ戻りたい思いにかられる。
9. 鬼火 Irrlicht
Irrlichtの直訳は「狂った火」。鬼火に誘われ若者は歩いていこうとする。喜びも悲しみも、鬼火のようにはかないものだと想う。詩の内容は鬼火自体よりも、むしろそれを追って辿り着いた岩に囲まれた深い渓谷に旅人が不安を抱くこと無く、「道に迷うことに慣れた」様子を語っている。この曲から、具体的な失恋につながる描写は極端に少なくなり、主人公に狂気が漂い始める。
10. 休息 Rast
小屋で休息を取る。しかし体の痛みは消えず、さすらいが自分にとって安らぎなのだと気づく。
11. 春の夢 Fruhlingstraum
美しい花に彩られた春の夢を見る。しかし目が覚め、冷たい現実に引き戻されると、旅人は絶望的な思いで嘆く。「冬の旅」全曲中、「菩提樹」に次いで有名な曲。楽しげな春の夢は、雄鶏の時を作る声で遮断される。この、雄鶏の時を作る声の描写が三度あることから、梅津時比古は、聖書の「ペテロの否認」の場面との関連を指摘している。
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