シューベルト:交響曲 第9番 ハ長調「ザ・グレート」D.944

指揮: アンドレス・オロスコ=エストラーダ Andres Orozco-Estrada
hr交響楽団 hr-Sinfonieorchester (Frankfurt Radio Symphony)
Alte Oper Frankfurt, 14. Dezember 2018

フランツ・シューベルトの交響曲第9番ハ長調 D.944 は、1825年から1826年にかけて作曲され、1838年に初演された4楽章からなる交響曲

第1楽章 Andante - Allegro ma non troppo
第2楽章 Andante con moto
第3楽章 Scherzo. Allegro vivace
第4楽章 Finale. Allegro vivace

本記事の交響曲は通称『ザ・グレート』(独:Die grose C-dur 、英:The Great C major)と呼ばれる事があるが、この呼び名はシューベルトの交響曲のうちハ長調の作品に第6番と第8番の2曲があり、第6番の方が小規模であるため「小ハ長調(独:Die kleine C-Dur)」と呼ばれ、第8番が「大ハ長調」と呼ばれることに由来する。この『ザ・グレート』はイギリスの楽譜出版社が出版する際の英訳によって付けられたものであるが、本来は上述のように第6番と区別するために付けたため「大きい方(のハ長調交響曲)」といった程度の意味合いしかなく、「偉大な」という趣旨は持たない。しかしそのスケールや楽想、規模は(本来意図したものではないにせよ、偉大と言うニュアンスでも)『ザ・グレート』の名に相応しく、現在ではこの曲の通称として定着している。

指示通りに演奏してもゆうに60分以上かかる大曲であり、シューマンは曲をジャン・パウルの小説にたとえ、「すばらしい長さ (天国的な長さ)」[注 3]と賞賛している。ベートーヴェンの交響曲の規模の大きさと力強さとを受け継ぎ、彼独自のロマン性を加えて完成された作品となっており、後のブルックナー、マーラー、20世紀のショスタコーヴィチなどの交響曲につながっている

第1楽章 Andante - Allegro ma non troppo ハ長調、2/2拍子、序奏付きソナタ形式(提示部リピート付き)。
ホルン2本のユニゾンでおおらかに始まる。この開始部分はシューマンの交響曲第1番『春』やメンデルスゾーンの交響曲第2番、ブラームスのピアノ協奏曲第2番のモデルとなっている。この序奏部分が楽章全体を構成する主要なモチーフを提示している点に大きな特徴がある。第1主題は音の大きく動く付点のリズムと3連符に特徴がある。第2主題が5度上の属調であるト長調ではなく、3度上のホ短調で書かれているのも大きな特徴(再現部では同主調のハ短調で1度、平行調のイ短調でもう一度奏されており、ソナタ形式としての整合性が取られている)。変イ短調に始まるトロンボーンの旋律が第3主題とされることもあるが、動機としては序奏の旋律の断片である。リズミカルなモチーフを主体として主題が構成されている点には、尊敬してやまなかったベートーヴェンの特に交響曲第7番と多くの共通点を持つ一方で、大胆な転調や和声進行にはシューベルトらしさが満ちあふれている。第662小節から最終685小節にかけて、序奏の主題が、音価を2倍に引き伸ばされた形で(結果として序奏と同じテンポに聞こえる)2度力強く再現され、楽章を終える。なお、この手法をシューベルトは交響曲第1番第1楽章ですでに用いている。

第2楽章 Andante con moto イ短調、2/4拍子、展開部を欠くソナタ形式の緩徐楽章。
7番の第2楽章と同じような構造(A-B-A-B-A(コーダ))である。主としてオーボエが主旋律を担当する第1主題部(A)は、スタッカートが特徴のリズミカルな動機を主体とし、かつ3つの異なる旋律から構成され、ピアノとフォルテシモの頻繁な交代を特徴としている。第2主題(B)はヘ長調で書かれ(7番第1楽章と同じ調性関係)、第1主題とは対照的に息の長いレガートを主体とした下降旋律を特徴とする、シューベルトの面目躍如たる美しい旋律であり、対旋律の美しさも特筆に価する。中でも第148小節から12小節に渡るホルンと弦との対話はシューマンが絶賛していた。再現部では、第1主題が劇的に発展し、第2主題は主調の同主長調であるイ長調で再現する。第330小節からのコーダでは第1主題が短縮された形で再現する。

第3楽章 Scherzo. Allegro vivace ハ長調、三部形式、3/4拍子の大掛かりなスケルツォ。
ベートーヴェンのスケルツォよりはメヌエットの性格を残している。後のブルックナー後期作品を思わせるような息せき切るような主部の旋律と、シューベルトらしい旋律に溢れた雄大な中間部トリオ(イ長調)の対照が効果的である。スケルツォ主部はそれだけでソナタ形式の構造をしており、提示部に加え、展開部+再現部にもリピートがつけられており、特に後者は省略されることも多い。トリオの旋律はベートーヴェンの交響曲第4番の第3楽章のトリオのそれに似ている。

第4楽章 Finale. Allegro vivace ハ長調、2/4拍子、自由なソナタ形式(提示部リピート付き)。
1,155小節にも及ぶ長大なフィナーレ。第1楽章同様付点のリズムと3連符、そしてこの楽章ならではのオスティナートと強弱のコントラスト、激しい転調に特徴があり非常に急速で息を付かせない。ところどころ同じ和音が数小節にわたって続くところを如何に聞かせるかが、演奏者の腕の見せ所である。シューベルトはピアノソナタ第18番以降、同音連打を積極的に導入しており、このフィナーレでも存分にこれが展開される。
開幕の付点音符を素材とするハ長調の第1主題は非常に躍動的で、確保された後にト長調で抒情的な第2主題が木管によって朗々と歌われる。これが発展し、劇的な展開を見せた後にコデッタを経て、変ホ長調でこの曲の真の展開部。クラリネットが奏する第1・2主題と全く異なる旋律はベートーヴェンの交響曲第9番の「歓喜の主題」が改変されて引用されており、ベートーヴェンに対するオマージュと考えられる。歓喜の歌も含めた展開、やや変型された再現部の後にppまで落ち、972小節目から始まるコーダでは2つの主題と歓喜の歌が組み合わさって堂々たる終結を迎える。

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