シューベルト:歌曲「魔王」"Erlkönig" 作品1 D.328

バリトン: ベンヤミン・アップル Benjamin Appl
ピアノ: ジェームス・ベイルー James Baillieu
Performance recorded during the Gramophone Classical Music Awards 2016 at the St John's Smith Square
(London, Great Britain), on August 25, 2016.

『魔王』(Erlkönig)はシューベルトが1815年頃に作曲したリート(歌曲)。ゲーテの同名の詩に、少年期の作者が触発され、短時間のうちに歌曲と伴奏を完成させた傑作。ドイッチュ番号は328となっている。作品番号は1が与えられているが、これはシューベルトの作品のうち、最初に出版されたもの、を意味するに過ぎず、シューベルトはこの作品以前にすでに多くの歌曲やピアノ曲を完成させている。

ト短調。変形したロンド形式。4分の4拍子。序奏は右手g音のオクターヴ奏法で嵐の中の馬の疾走、更に左手の音階音型でしのびよる不気味さを演出している。ピアノ伴奏者には技術が求められる。
単独の歌手で、狡猾な魔王が言い寄る場面、家路に急ぐ父親、恐れおののく息子の3役を演じ分ける必要がある。意表をついた転調とたくまざる(伴奏音型の)単純さを旨とする作者の作曲技術がこれほど効果的に発揮された例はない。

魔王の声の部分は最初平行調変ロ長調、2度目はハ長調、3度目はハ短調のナポリ調(ナポリの六度の和音調)である変ニ長調で歌われ、徐々に調が上昇させることで、緊張感を高めていく。また、子供の声の部分で、ピアノと歌声部が短二度で接触するところなど、きわめて斬新であり、シューベルトがコンヴィクトでこれを試演したとき、周りの者は(老教師ルージチェカを除いて)誰も理解しなかった。終結部にいたってAs音が急に登場する(ナポリの六度)。一瞬の隙をついて主和音で終わる。詩の中で突如息子の死を宣告しているのと緊密に符合させている。この終結部はレチタティーヴォ風の処理がなされており、極めて印象的である。

シューベルト:歌曲「魔王」

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