ベートーヴェン:ミサ・ソレムニス Missa solemnis (荘厳ミサ曲)ニ長調 作品123

指揮: アンドレス・オロスコ=エストラーダ Andres Orozco-Estrada
hr交響楽団 hr-Sinfonieorchester
ウィーン楽友協会合唱団 Wiener Singverein
Rheingau Musik Festival 2016
Regine Hangler, Sopran
Katrin Wundsam, Alt
Steve Davislim, Tenor
Hanno Muller-Brachmann, Bass

 

Kyrie - Assai sostenuto. Mit Andacht
Gloria - Allegro vivace
Credo - Allegro ma non troppo
Sanctus - Adagio. Mit Andacht
Agnus Dei - Adagio

ベートーヴェンのミサ・ソレムニス(Missa solemnis) 1823年に完成させた晩年の大曲。ニ長調、Op.123。

キリエ(Kyrie)3部形式。
楽譜冒頭部に有名な、「Vom Herzen―Moge es wieder zu Herzen gehen」(心より出で-願わくば再び-心に向かうよう)という言葉が記されている。「Kyrie eleison」による第1部(アッサイ・ソステヌート)と、「Christe eleison」による第2部(アンダンテ・アッサイ・ベン・マルカート)よりなる。第3部は第1部を再現する。

ベートーヴェンは壮年期のミサ曲ハ長調と、晩年のミサ・ソレムニス ニ長調を残しているが、前者は伝統的な教会音楽の上に作られた作品であるのに対し、後者は単なる教会音楽を超えたより深く普遍的なものを含む、と見るのが一般的である。その理由としては、テキスト自体はカトリックの典礼文に則っているものの、『クレド』以降の歌詞の取り扱い方が伝統的なそれとかなり異なっている事や、実際にミサの式典中に演奏すると儀式とこのミサ曲との調和が殆ど見られない事などが挙げられる(したがって、ミサ・ソレムニスは、主として教会でなく演奏会で演奏される。ミサの式典ではごく稀にオーストリアなどで演奏されるに過ぎない)。
ベートーヴェンは権威的・教条主義的なキリスト教会に対しては十分批判的な思想と宗教観を持っていたという事も注目されてきた。
例えば、ワーグナーはこのミサ曲を「真正なベートーヴェン的精神を持つ、純粋な交響曲的作品」と評し、20世紀を代表するベートーヴェン研究家のパウル・ベッカーなども、「(バッハのような)素直な信仰から生じる歌詞に(音楽を)合わせる様な処理はベートーヴェンの考えには現れえず」、音楽家として自身の深く自由な思想を、単なる歌詞の意味を超越した音楽によって表現した、と語っている。
一方、ベッカーと相対する研究家ヴァルター・リーツラーは、作品の成立過程から見ても、これは教会で演奏されるべき作品である、すなわち「一つ一つのミサの言葉をベートーヴェンが重視した事を見逃してはならない」とした。しかし、その歌詞は「生成発展する音楽の有機的な連関に組み入れられたため」、おのずとバッハやパレストリーナのミサ曲の歌詞とは異なる意味を持ち、しかもより「深く正しい」意味を持つと論じた。ゆえに「(この曲について)心理的な写実主義を論じたあらゆる説明は誤りであるか少なくとも浅薄である」と結論付けている。
何れにせよ、この曲はただ歌詞に見合った曲をつけたような旧来型のミサ曲ではなく、ミサの言葉の外面的な意味よりも豊かな内容を含む交響曲的なミサ曲である、と見るのが一般的である。

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