ベートーヴェン: 交響曲 第3番 変ホ長調 作品55 「英雄」"Eroica"

指揮: ヘルベルト・フォン・カラヤン Herbert von Karajan
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 Berliner Philharmoniker
1982年04月30日 ベルリンフィルハーモニーホール

I. Allegro con brio
II. Marcia funebre. Adagio assai
III. Scherzo. Allegro vivace
IV . Finale. Allegro molto
 
交響曲第3番変ホ長調『英雄』(原題:伊: Sinfonia eroica, composta per festeggiare il sovvenire d'un grand'uomo 英雄交響曲、ある偉大なる人の思い出に捧ぐ)作品55は、ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンが作曲した3番目の交響曲である。1804年に完成された。『英雄』のほか、イタリア語の原題に由来する『エロイカ』の名で呼ばれることも多い。ベートーヴェンの最も重要な作品のひとつである。
 
フランス革命後の世界情勢の中、ベートーヴェンのナポレオン・ボナパルトへの共感から、ナポレオンを讃える曲として作曲された。しかし、完成後まもなくナポレオンが皇帝に即位し、その知らせに激怒したベートーヴェンはナポレオンへの献辞の書かれた表紙を破り捨てた、という逸話がよく知られている。
この曲は、ハイドンやモーツァルトなどの古典派の交響曲や、自身の交響曲第1番・第2番からの飛躍が著しい。曲の長大さや、葬送行進曲やスケルツォといったそれまでの交響曲の常識からすると異質にも思えるジャンルとの本格的な融合、マーラーを先取りする「自由に歌うホルン」を取り入れたオーケストレーション、さらに英雄的で雄大な曲想などの点において革新的である。
この曲の「標題」のように用いられているエロイカ (eroica) は、男性単数名詞を形容する eroico という形容詞が女性単数名詞である sinfonia (交響曲)を修飾するために語尾変化したものである。sinfonia eroica を直訳すると「英雄的な交響曲」となる。
 
演奏時間は、かつて第1楽章の繰り返しを含めて約52分程度が標準的であったが、近年はベートーヴェンのメトロノーム指定を尊重する傾向が強まり、繰り返しを含めて42分から48分ほどの演奏も増えている。
曲の構成は、第1楽章の巨大な展開部と第2展開部に匹敵するコーダ。第2楽章には歌曲風の楽章の代わりに葬送行進曲、第3楽章にはメヌエットの代わりにスケルツォ(ただし、これは第1番と第2番でも既に試みられている)、そして終楽章にはロンド風のフィナーレの代わりに変奏曲が配置される。
第1楽章 Allegro con brio 変ホ長調。 3/4拍子。 ソナタ形式(提示部反復指定あり)。
交響曲第1番および第2番にあったゆっくりした序奏を欠いている。ただし、主部の冒頭に(修飾がつくこともあるが)2回和音が響き、3度目からメロディーが流れていく、というリズムパターンは第1番から第4番まで共通しているのではないか、と指摘する学者もいる。シンプルな第1主題はチェロにより提示され、全合奏で確保される。その後、経過風の部分に入り、下降動機がオーボエ、クラリネット、フルートで奏される。第2主題は短く、ファゴットとクラリネットの和音の上にオーボエからフルート、第1ヴァイオリンへ受け継がれる。すぐにコデッタとなり、提示部が華やかに締めくくられる。提示部には反復記号があるが、長いので反復されずに演奏されることが多い。展開部は第1番、第2番のそれと比べても遥かに雄大で、245小節に及ぶ。第1主題を中心にさまざまな変化と駆使して発展する。ホルンが第1主題の断片を奏して再現部を導入する。再現部は第1主題がさらに劇的に再現されるなど多少の変化を伴うが、ほぼ提示部の通りに進行する。143小節に及ぶ長大なコーダは、第2の展開部とも言うべき充実を見せ、力強くこの楽章を締めくくっている。
 
第2楽章 Marcia funebre: Adagio assai ハ短調。2/4拍子。葬送行進曲。A-B-A-C-Aの小ロンド形式。
第1副部の冒頭にMaggiore(長調の意、ここでハ長調に転調する)、第2主部の冒頭にMinore(短調、ハ短調に戻る)と記されている。主要主題(A)は第1ヴァイオリンで序奏なしに現れる。オーボエに移された後、対旋律が変ホ長調で提示されて発展する。第1副部(B)はハ長調に転調し、オーボエからフルート、ファゴットへ受け継がれて発展する。再び主要主題が戻るが、すぐに第2副部(C)となり、第2ヴァイオリンにヘ短調の新しい主題が現れてフーガを形成してゆく。これが収束すると主要主題が戻るが、かなり劇的に扱われて進行する。対旋律も続き、ヴァイオリンによる経過風の部分の後、38小節に及ぶコーダに入り、厳かに終了する。
 
第3楽章 Scherzo: Allegro vivace 変ホ長調。3/4拍子。複合三部形式。
トリオ(中間部)にホルン三重奏が見られる。特に第2ホルンはストップ奏法を多用する、当時としては難度の高いものとなっているが、緊張感のある音となるので、トリオのコーダでは大きな効果を得られる。ベートーヴェンが当時のホルンの特色を熟知していた一例であるが、音色が均質な現代のヴァルヴホルンでは逆にそういった効果は得がたい。
 
第4楽章 Finale: Allegro molto 変ホ長調。2/4拍子。自由な変奏曲の形式。
主題と10の変奏による。ただし、第4、第7変奏については、ソナタ形式における展開部の様相を示すため、変奏に数えず変奏と変奏の間の間奏のような形で捉えることもある。第10変奏もコーダの様相を示すため、変奏に数えないことがある。なお、第4楽章の主題はバレエ音楽『プロメテウスの創造物』の終曲のものと同じであるばかりでなく、ベートーヴェンの他の作品(通称:エロイカ変奏曲)でも使われているが、この曲以降ベートーヴェンはこの主題を加えた曲を書いていない。 なお、第1楽章で避けられたトランペットの高いB♭音は、316小節においてこの楽章でも注意深く避けられている。381小節からは当時としては珍しく、第1ホルンが協奏曲ばりに半音階を含む主題を朗々と奏でる。

音楽の森 ベートーベン:交響曲 第3番

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