ベートーヴェン: ピアノ・ソナタ 第8番 ハ短調 作品13「悲愴」"Pathetique"

ピアノ演奏: ルドルフ・ブッフビンダー Rudolf Buchbinder

ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンのピアノソナタ第8番ハ短調作品13『大ソナタ悲愴』(Klaviersonate Nr. 8 c-Moll "Grande Sonate pathetique" )は、ベートーヴェンが作曲した10番目の番号付きピアノソナタであり、初期を代表する傑作として知られる。
6つの弦楽四重奏曲や七重奏曲、交響曲第1番などと並ぶ、ベートーヴェンの初期の代表作として知られる。また、ピアノソナタ第14番(月光)、ピアノソナタ第23番(熱情)と並んでベートーヴェンの3大ピアノソナタとも呼ばれることもある。
 
『大ソナタ悲愴』という標題は、ベートーヴェン自身が名づけた数少ない標題の例として知られる。ベートーヴェン自身が楽曲に標題を与えることは珍しく、ピアノソナタのなかではほかに『告別』があるのみで、その他の標題(『月光』など)はベートーヴェン以外が名づけている。したがって、この標題には特別な意味があるとみなされることも多い。
この曲はそれまでのピアノ曲とは異なり、人間的な感情の表現が豊かになっている。そのような点で、ロマン派音楽のピアノ書法の原点のひとつとみなすことが可能であり、また、ピアノのロマン的な特性を利用することに成功した初めての曲と言うこともできる。

第1楽章 Grave 4/4拍子 - Allegro di molto e con brio 2/2拍子 ハ短調 ソナタ形式。
グラーヴェの序奏が置かれ、展開部とコーダでも姿を見せる。同様の手法は選帝侯ソナタ第2番 WoO.47-2(1782年-1783年)の第1楽章にも見られる。
急速な半音階の下降で序奏部を終えると主部が開始され、第1主題がトレモロの伴奏に乗って現れる。
発展して緊張の高まりを迎え、落ち着きを取り戻すと次なる主題が変ホ短調に提示される。
さらに管弦楽的な広がりを持った変ホ長調の主題が続く。同主音の短調長調による対照的ないずれもソナタの第2主題となり得る性格を有しており、こうした構成に関しては第3番のソナタの第1楽章で行われた主題配置が先例となっている。
提示部の反復が終わるとト短調でが再現されて展開部となる。展開部は第1主題に基づいて勢いよく開始するが、その中に序奏部の音型がリズムを変えて巧みに織り込まれている。展開部の半ばほどで既にト音を執拗に鳴らす左手のトレモロの音型がペダルポイントを形成しており、十分に準備された後に4オクターヴに及ぶ下降音型から再現部に入る。再現部では第1主題とヘ短調の譜例3の間に新たな推移が置かれ、譜例4はハ短調となって現れる。コデッタがハ短調でクライマックスに達したところで再び譜例1が挿入され、第1主題による短いコーダで力強く終結する。
  第2楽章 Adagio cantabile 変イ長調。小ロンド形式。
ベートーヴェンの最も有名なアダージョのひとつであり、さまざまな編曲も知られている。自身の後年の作品でも、交響曲第9番の第3楽章の主題がこの旋律と似ているほか、幻の作品といわれる交響曲第10番の冒頭部でもこの旋律が転用される計画があったとする研究もある。 中間部では、同主調の嬰ト短調(譜面上は同名短調の変イ短調)を経由してホ長調へ転調される。中間部で新たに提示された3連符の素材が再現部に持ち越される。
3連符を用いた小規模なコーダが置かれ、静かに楽章の幕が下ろされる。
 
第3楽章 Rondo, Allegro 2/2拍子 ハ短調 ロンド形式
ロンド主題は譜例3から導かれているが、第1楽章とは異なって劇的な表現を抑えて洗練された簡素さを感じさせる。
推移部を挟んでドルチェの主題が変ホ長調で奏される。
3連符主体の経過が穏やかなエピソードを中間に置いて繰り返され、フォルテッシモの下降音階の最低音にフェルマータを付して区切りをつけ、譜例8の再現へと移っていく。次に出されるのは優美な変イ長調の主題である。対位法的な手法を駆使して左右の手に現れた旋律が声部を交代しながら繰り返されていく。
対旋律がスタッカートの音型に取って代わられて忙しない経過楽句に接続されると、再び下降音階で区切られてロンド主題の再現へと進められる。主題を低声部に移すなど変化を持たせながら、譜例9もハ長調で続けて再現される。3連符のエピソードもこれに追随し、再度現れた譜例8からコーダに至る。終わり付近で譜例8が回想されつつ静まっていくが、最後は突如フォルテッシモに転じて強力に全曲を結ぶ。作曲者自身はこの楽章を「ユーモラス」に弾いたと伝えられる。

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