ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ 第29番 作品106「ハンマークラヴィーア」"Hammerklavier"

ピアノ演奏: ヴィルヘルム・ケンプ Wilhelm Kempff
Broadcast on 29 November 1964

00:05 I. Allegro
08:48 II. Scherzo, Assai vivace
11:33 III. Adagio sostenuto, Appassionato e con molto sentimento
28:50 IV. Largo - Allegro risoluto

ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンのピアノソナタ第29番変ロ長調作品106は彼の書いた4楽章ピアノソナタ(全10曲)の最後となる大曲。《ハンマークラヴィーア "Hammerklavier"》と呼ばれている。ベートーヴェンはシュタイナー社への手紙の中で、作品101以降のピアノソナタに、ピアノフォルテに代わりドイツ語表記でハンマークラヴィーアと記すように指定している。作品106に限ってハンマークラヴィーアと呼ばれることは、ベートーヴェンの意思に反するだろうが、現在ではこの曲の通称として広く親しまれている。後に続く最後の3曲とは対照的に、規模の巨大さが特徴である。演奏は現在でも非常に困難なものとされ、多くのピアニストにとって“壁のような存在”と言われる。

ベートーヴェンのピアノ作品中はもちろん、古今のピアノ作品中未曾有の規模を持つ傑作。ピアノ独奏曲・ソナタとして歴史の一角を為すに相応しい高度で膨大な内容を有し、ピアノの持つ表現能力の可能性を極限まで追求している。その技術的要求があまりに高すぎたため、当時のピアノ及びピアニストには演奏不可能だったと言われる。しかし、ベートーヴェン自身は「50年経てば人も弾く!」と一切の妥協をせず、作品の音楽的価値(芸術性)のために考えうるすべてを駆使した。作曲に対する彼の後期様式を強く示す1曲でもある。ピアノソナタながら4楽章を有し、交響曲にも匹敵するほどの高度な内容と演奏時間(約44分)をもつ。
現実には、作曲後20数年でクララ・シューマンやフランツ・リストがレパートリー化して、各地で演奏した。またブラームスは自身のピアノソナタハ長調の中で第一楽章同士に酷似した開始をさせている。

第1楽章 Allegro 2/2拍子 変ロ長調 ソナタ形式。
ベートーヴェンはこのピアノソナタにのみメトロノーム記号を書き入れている。しかし、第1楽章に指定された(half note = 138)という速度は極めて速く、エトヴィン・フィッシャーはこれを誤った指示であると断じた。曲は序奏を置かず、第1主題の提示に始まる。第1主題の前段はかつてない壮大さを備えたもので、後段(譜例2)は対照的に穏やかな性格を有している。アンドラーシュ・シフらは曲全体を統一する構成原理として、3度音程及びその拡大である10度音程の存在を指摘している。
第2楽章 Assai vivace 3/4拍子 変ロ長調 三部形式。
作曲者がピアノソナタのために書いた最後のスケルツォ楽章である。始まり1オクターブ上で繰り返すと、さらに譜例5に基づく楽節が2回奏される。
第3楽章 Adagio sostenuto 6/8拍子 嬰ヘ短調 ソナタ形式。
深い内容を湛えた大規模な緩徐楽章。冒頭の1小節は、1819年4月16日に作曲者がロンドンで楽譜の印刷を行っていたフェルディナント・リースに書簡で依頼して付け足したものである。メトロノームによる速度指定もこの時行われ、第3楽章には(eighth note = 92)というテンポが定められた。
第4楽章 Largo 4/4拍子 - Allegro risoluto 3/4拍子 変ロ長調
幻想曲風の序奏が置かれる。間にラルゴの楽想を挟みつつ、ウン・ポコ・ピウ・ヴィヴァーチェの音階的な部分、アレグロの活発な動きが現れて序奏部を形成する。最後はプレスティッシモとなり、アレグロ・リゾルートの主部へ移行する。

ピアノソナタ第29番「ハンマークラヴィーア」 (ベートーヴェン)

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