ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ 第27番 ホ短調 作品90

ピアノ演奏: ワレリー・アファナシエフ Valery Afanassiev
live in Moscow, 2006. This recital was in memory of his teacher Emil Gilels ( エミール・ギレリス

ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンの作品、ピアノソナタホ短調Op.90はベートーヴェンの作曲した重要なピアノソナタの1つ。1814年に作られ、モーリッツ・リヒノフスキーに献呈された。この時期、ベートーヴェンは政治の問題に悩んでおり、長期的にスランプに陥っていた。この作品はそのような時代に書かれた曲である。作曲者はこの頃から、政治的な背景もあって、発想の指示にドイツ語を使用するようになり、愛国心の強さを感じることができる。作風としては、作曲者のロマン期・カンタービレ期に属し、中期の重要な技法であった主題労作を離れ、2楽章と小規模ながら、その分深い感情が込められ、1本の旋律が歌われたりする。また、フランツ・シューベルトにも影響を与えた。
 この曲は献呈されたリヒノフスキーの恋愛譚(細君を亡くした後、リヒノフスキーは歌手シュトゥンマーに恋するが、兄の身分差別により結婚は許されなかった。兄の死後ようやく二人は結ばれた)を音化したものだと伝えられている。シンドラーによれば、ベートーヴェンは第一楽章に「頭と心臓との闘い」、第二楽章に「恋人との対話」と書くべきものだと語ったという。

第1楽章 速く、そしていつも感情と表情をもって Mit Lebhaftigkeit und durchaus mit Empfindung und Ausdruck 3/4拍子 ホ短調
ソナタ形式。主和音の強い打撃に始まる。これに緩やかな後半楽節が続いて第1主題を形成する。
リズムに基づき大きな跳躍を含む旋律で推移すると、静かに同じリズムで上昇して高音から一気にスケールで下降する。激しい和音の連打に続いて、ロ短調の第2主題がアルベルティ・バスの上に情熱的に歌われる。この時伴奏音型に現れるバスの進行は第1主題から導かれている。
現れたト音から嬰ヘ音への動きを繰り返す結尾句で提示を終える。提示部の反復は省略され、速やかに展開部へと移る。まず、提示部に現れた連打音の上で譜例1が扱われる。続いて対旋律を伴って譜例2が出されるが、それが低声部へ移される一方で右手は高音部で装飾的な16分音符を奏でる。左手の動機は順次細分化され、切迫する。その間、絶え間なく鳴り響いていた装飾的音型の最後の1節が引き伸ばされ、そのまま譜例1の動機へと変容して再現部となる。再現部は定型どおりに進行し、コーダでは第1主題を扱って静かに閉じられる。
第2楽章 速すぎないように、そして十分に歌うように Nicht zu geschwind und sehr singbar vorzutragen 2/4拍子 ホ長調
ロンド形式。それぞれの部分はきわめて旋律的である。ロンド主題である冒頭は由来しており、巧みな動機操作により全曲の統一が図られている。この主題はフランツ・シューベルトのピアノソナタホ短調D.566の第2楽章に酷似しており、おそらくシューベルトはこの曲から影響を受けたものと思われる。
ドルチェのエピソードを挟んで再現された後、新たな主題を置く代わりに既出の主題の展開が行われる。続いてドルチェの旋律が展開されて頂点を築く。落ち着いた後、ホ長調で再現される。その後、再度姿を現したテノールとソプラノの音域で交互に歌われる。そのままコーダが続き、最後は愛らしいエピローグを経て静かに終わりとなる。

ピアノソナタ第27番 (ベートーヴェン)

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