ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ 第17番 ニ短調 作品31-2 "Tempest"「テンペスト」

ピアノ演奏: ヴィルヘルム ケンプ Wilhelm Kempff
Studio Recording, 1951

ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン作曲のピアノ・ソナタ第17番ニ短調作品31-2は、一般に『テンペスト』の名で知られ、ベートーヴェンのピアノソナタのなかでは比較的有名な部類に属する。特に第3楽章が有名であり単独で演奏される機会も多い。この第3楽章は、ごく短い動機が楽章全体を支配しているという点で、後の交響曲第5番にもつながる実験的な試みのひとつとして考えられている。また、3つの楽章のいずれもがソナタ形式で作曲されている点もこの作品のユニークな点として知られている。

『テンペスト』という通称は、弟子のアントン・シンドラーがこの曲とピアノ・ソナタ第23番の解釈について尋ねたとき、ベートーヴェンが「シェイクスピアの『テンペスト』を読め」と言ったとされることに由来している。

第1楽章 Largo-Allegro ニ短調。ソナタ形式。
ラルゴ-アレグロを主体としながらもテンポ表示は頻繁に変わる。全体は3つの部分からなる。再現部の前の朗詠調のレシタチーヴォ、刻々と変わる発想記号などは朗読劇を聞いているようで、中期作曲者の劇的な作風の典型である。終結も陰鬱な低音が静かに現れるだけである。演者が(幕が下り)静かに立ち去る様子を模写しているように映る。
第2楽章 Adagio 3/4拍子 変ロ長調 展開部を欠くソナタ形式。
第1楽章と同じくアルペッジョで幕を開け、遠く離れた2つの声部が対話風に応答し合う第1主題が現れる。
ティンパニのように響く低音の音型が高音部にも明滅し、その間でコラールが響く経過楽節がくる。第2主題はドルチェで歌われるヘ長調の美しい歌である。
展開部は置かれず、しばしティンパニ風の音型を聴くとただちに再現部が始まる。再現された第1主題は形を変えており、音域の広いアルペッジョの伴奏に彩られる。経過部、変ロ長調の第2主題と続き、第1主題によるコーダの後にしめやかに終わりを迎える。
第3楽章 Allegretto 3/8拍子 ニ短調 ソナタ形式。
熱気を持ってほとんど休むことなく動き回る無窮動風の音楽。第1主題に始まる。作曲者が馬車の走行から着想を得たという逸話がツェルニーによって伝えられている。
第1主題を用いた経過句を経て第二主題がイ短調で出される。
形を変えて繰り返され、コデッタでも大きな盛り上がりを見せつつ提示部の反復となる。展開部では他の材料を排して、声部の入れ替えや主題の反行などを織り交ぜつつ徹底的に第1主題を展開する。
第1主題が再び現れて再現部となり、第2主題もニ短調で続く。展開部と同じ音型で始まるコーダは第1主題が高らかに歌われて最後に熱を帯びた後、そのまま彼方へ遠ざかっていくかのように終わりを迎える。

ピアノソナタ第17番「テンペスト」 (ベートーヴェン)

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