ベートーヴェン:ピアノ協奏曲 第5番 作品73 「皇帝」(全3楽章)

指揮:アンドリス・ネルソンス Andris Nelsons
ボストン交響楽団 Boston Symphony Orchestra
ピアノ:内田 光子 Mitsuko Uchida(74 year old)2022

ピアノ協奏曲 第5番 変ホ長調 作品73は、ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンが遺したピアノ協奏曲の一つ。『皇帝』の通称で知られている。

いわゆる「傑作の森」と評される時期に生み出された作品の一つであり、ナポレオン率いるフランス軍によってウィーンが占領される前後に手がけられている。ベートーヴェンが生涯に完成させたオリジナルのピアノ協奏曲全5曲の中では最後となる作品であり、かつ初演に於いて他のピアニストに独奏ピアノを委ねた唯一の作品でもある。

「皇帝」という通称の由来
当楽曲に付されている「皇帝」という通称は、ベートーヴェンとほぼ同世代の作曲家兼ピアニストであり楽譜出版などの事業も手がけていたヨハン・バプティスト・クラーマーが、雄渾壮大とか威風堂々といった当楽曲で抱いた印象から付与したものといわれ、ベートーヴェンの死後、主として英語圏で定着した。
尤もこの「皇帝」という通称を巡っては、フランス軍に攻め込まれ、オーストリア皇帝やベートーヴェンの支援者たる貴族たちが疎開していった状況下で、不自由な生活を強いられていたベートーヴェン自身が「皇帝」を想起しつつ作曲を進めていたとは考えがたく、たとえ当楽曲の曲想が「皇帝」のイメージと結びついているとしても、作曲当時の状況から考えれば不相応といわざるを得ない、との指摘も一部の専門家から為されている。

第1楽章 Allegro 変ホ長調 4/4拍子
独奏協奏曲式ソナタ形式。慣例に反して、いきなりピアノの独奏で始まるがこの部分は序奏に相当する。提示部は伝統的な独奏協奏曲の様式に従い、まずオーケストラで提示してからピアノが加わる。第2主題は最初短調で示されてから本来の長調に移行するが、第1提示部(オーケストラ提示部)では同主短調の変ホ短調で示されてから本来の変ホ長調へ、第2提示部(独奏提示部)では遠隔調のロ短調で示されてから本来の属調(変ロ長調)へ移行する。コデッタは第1主題を全合奏で力強く奏するもので、華麗に提示部を締めくくる。展開部は木管が第1主題を奏して始まり、豪快に協奏しながら第1主題を中心に展開してゆく。再現部は序奏から再現されるが、主題の再現自体は型どおりのものになっている。コーダに入る所ではベートーヴェン自身により、ドイツ語でカデンツァは不要である旨の指示がある。
第2楽章 Adagio un poco mosso ロ長調 4/4拍子
変奏曲形式(ヘンレ版では2分の2拍子)。穏やかな旋律が広がる。全体は3部からなっており、第3部は第1部の変奏である。第2部を第1部の変奏と解釈すれば第2部が第1変奏、第3部が第2変奏の変奏曲形式であり、そう解釈しなければ第2部を中間部とした複合三部形式である。楽章の最後で次の楽章の主題を変ホ長調で予告し、そのまま続けて終楽章になだれ込む。ベートーヴェンのこれまでの協奏曲では、第2楽章で木管楽器が一部または全て登場しなかったが、この作品は全て登場している。
第3楽章 Rondo Allegro - Piu allgero 変ホ長調 6/8拍子
ソナタ形式。他の協奏曲に見られるように同じ主題が何度も弾かれ、ロンド形式の風体を示しているのでロンドと呼んだものと考えられる。しかしこの作品においては形式としては完全にソナタ形式の要件を備えており、ロンド風ソナタ形式と言える。快活なリズムで始まり、ホルンの通奏低音が入っている。再現部の前で第2楽章の終わり(すなわち第3楽章の提示部の前)の部分を回想している。終わり近くでティンパニが同音で伴奏する中、印象的にピアノが静まっていく。

ベートーヴェン:ピアノ協奏曲 第5番

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