J.S.バッハ:カンタータ 第106番 "Gottes Zeit ist die allerbeste Zeit" 「神の時こそ いと良き時 」

指揮:ヨス・ファン・フェルトホーフェン Jos van Veldhoven
オランダ・バッハ協会合唱団&管弦楽団 Netherlands Bach Society CHOIR & ORCHESTRA
Dorothee Mields, soprano Alex Potter, alto Charles Daniels, tenor Tobias Berndt, bass

『神の時こそいと良き時』(Gottes Zeit ist die allerbeste Zeit)BWV106は、ヨハン・ゼバスティアン・バッハが1707年から1708年頃に作曲したと推察される教会カンタータ。通称は「哀悼行事」(Actus Tragicus)。全4曲からなり、当時の死生観を反映した作品として、また草創期の素朴な作品として重視する愛好家も多く、のちの整然としたカンタータとは違う構造もあいまって、非常に人気の高いカンタータの一つである。

第1曲 ソナティーナ リコーダー2・ガンバ2、通奏低音、ヘ長調(変ホ長調)、4/4拍子
寄り添うガンバと歩行音型を刻む通奏低音を前奏として、リコーダーが主導する。ユニゾンを基本としながら、波動音型のパートでは別れて和音を交し合う。素朴な音楽だが、タイトルどおり提示・展開・再現のソナタ形式で構成されている。

第2曲 『神の時こそいと良き時』(Gottes Zeit ist die allerbeste Zeit) 大きく4のパートに分けられる。

Ⅰ 合唱『神の時こそいと良き時』(Gottes Zeit ist die allerbeste Zeit)
合唱・リコーダー2・ガンバ2、通奏低音、ヘ長調(変ホ長調)→ニ短調(ハ短調)、4/4→3/4/→4/4拍子
使徒言行録の引用を含む自由詩の合唱で、大きく3パートに分かれる。まずソプラノに主導される冒頭部。「神の時=臨終の時」の至福を活発・素朴に歌う。ホモフォニックに始まるが、やがてポリフォニックに動き出す。沈黙していた器楽が間奏を歌うと、神の手による生のパートへ。アレグロ・3拍子の活発な主題からなるフーガに入る。このフーガはやがて器楽も絡んでくる。このフーガは『神がお望みである限り』(solange erwill)の斉唱をもって打ち切られ、間奏後に神の手による死のパートへそのままなだれ込む。アダージョの短調に暗転し、スラーをともなう溜め息のモティーフと、頻繁に挿入された不協和音により、死への本能的恐怖を吐露する。

Ⅱ アリオーソ『ああ主よ、教えたまえ』(Ach Herr, lehre uns bedenken)
テノール・リコーダー2・ガンバ2、通奏低音、ニ短調(ハ短調)、4/4拍子
詩篇第90篇12節を引用し、人生の短さを嘆く。リコーダーの前奏主題を受けてテノールが語り出す。反復して神に希求するのは「自らの寿命がいくら残っているか」を知ること。嘆きの節回しから、やがて懇願の反復へと感情を高ぶらせ、神に問う。

Ⅲ アリオーソ『家に遺言せよ』(Bestelle dein Haus) バス・リコーダー2、通奏低音、ニ短調(ハ短調)、3/8拍子 だが神は質問を拒絶する。代わりに突きつけたのは、イザヤ書第38章1節。そこには「人は死ぬものである」という宣告のみ。リコーダーの伴奏も厳しい分散和音に変わる。このアリオーソは、最後に冒頭部を反復するアリア的進行で知られており、のちのダ・カーポ形式の萌芽と見る研究者もいる。

Ⅳ 合唱『これは古き契約』(Es ist der alte Bund)とアリオーソ『来たれ、主イエスよ』(Ja, komm, Herr Jesu, komm)
合唱・通奏低音、ト短調(ヘ短調)、4/4拍子 +ソプラノ・リコーダー2・ガンバ2
テノールを先頭に、アルト・バスの厳格な順列フーガが展開される。引用されるのはベン・シラの智恵第14章18節。人の死は原罪を贖う契約に基づくもので、死を恐れるのは必然と説く。通奏低音の歩行音のみで威圧的に通告するシラ書の支配を、唐突にソプラノが突き崩す。ソプラノの歌詞はヨハネ黙示録第22章20節。聖書に記述された最後の台詞である。同時に、リコーダーが「われ神にわがことを委ねん」の旋律を奏で、ガンバも伴奏に帰ってくる。シラ書のフーガと黙示録のアリオーソはしばし主導権を争うが、シラ書はやがて冒頭句のフーガが言えなくなり、遂には主要句のフーガも突き崩され、黙示録が静かに残る。

第3曲 『御手にわが霊を委ねん』(In deine Hande befehl ich meinen Geist) 大きく2のパートに分けられる。
Ⅰ アリア『御手にわが霊を委ねん』(In deine Hande befehl ich meinen Geist)
アルト・ガンバ2・通奏低音、ハ短調(変ロ短調)、4/4拍子
詩篇第31篇6節の引用で、安息に満ちたアリアとなっている。前奏から主題まで、上昇音形を基調としており、すべてを神の思し召しに委ねる決意や信頼を表明したものである。

Ⅱ アリオーソ『汝は今われと楽園にあり』(Heute wirst du mit mir)とコラール『平安と歓喜もてわれは逝く』(Mit Fried und Freud ich fahr dahin)
バス・ガンバ2、通奏低音、ニ短調(ハ短調)、4/4拍子 +アルト
今度のバスは神の代弁者ではなく、イエスの代弁者である。朗誦するのはルカ福音書第23章43節の福音。十字架上の最終福音の一つで、同時に磔刑を受けた二人の盗人に送られた慰めの福音である。一度目の朗誦が終わると、カンタータ125番の骨子となったマルティン・ルターのコラールがアルトによって添えられ、ガンバの伴奏が躍動し出す。しばしアリオーソとコラールは併走するが、やがてコラールだけが残り、「死=眠りの時」を伴奏のパウゼで表明して曲を閉じる。

第4曲 コラール『誉れ、讃美、尊崇、栄光を』(Glorie, Lob, Ehr und Herrlichkeit)
合唱・リコーダー2・ガンバ2、通奏低音、ヘ長調(変ホ長調)、4/4拍子
アダム・ロイスナーのコラール「われ汝に依り頼む、主よ」第7節をモテット風にアレンジして神を讃える晴れやかなフィナーレ。前半部は伴奏が活発なリトルネロを形成し、合唱がホモフォニーで述べる讃辞の間に挿入される。後半部はアレグロの二重フーガによるイエス讃。後半部の歌詞全体を用いた主題に加え、活発なメリスマを施したアーメン頌をまとっている。厳格な順列フーガとは違う自由闊達なフーガで、終盤には主題の全長を拡大したものも現れ、フーガの締めくくりを予告する。そしてアーメン頌のポリフォニー、最後のアーメン頌、器楽のエコーであっさり曲を終える。

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