木管古楽器: フラウト・トラヴェルソ Flauto traverso

フラウト・トラヴェルソ(伊:Flauto traverso)は木管楽器の古楽器の一種で、今日のフルート(モダン・フルート)の前身となった横笛である。略して「トラヴェルソ」と呼ばれることも多い。


概要

バロック期以前には、西洋音楽においてフルートといえば縦型のリコーダーの方が主流であったことから、「traverso(横向きの)」という修飾語を付けてフラウト・トラヴェルソと呼ばれていた。トラヴェルソのうち、バロック期に作られたものは「バロック・フルート」、古典派からロマン派の時代に作られたものは「クラシカル・フルート」「ロマンチック・フルート」と呼んで区別することもある。

構造

モダン・フルートと比べると極めてシンプルで、複雑なキーメカニズムはなく、頭部管のリッププレートもない。外径は全体的にモダンフルートよりも太く、内径は頭部管から足部管に向かってしだいに小さくなる円錐形になっている。管の結合部はテノンと呼ばれ、糸を巻いてあるものと薄いコルクを巻いてあるものとがあり、適宜コルクグリースを塗布して気密を保つ。
古典派以降の時代になると、より多くの調に対応できるよう、半音を出すための新たなトーンホールが設けられ、これを開閉するキーが付け加えられていった。さらに、高音域を出しやすくするために管の内径を細めるなどの改変がなされて、いわゆる「クラシカル・フルート」「ロマンチック・フルート」へと変貌していく。これによって音は明るさや軽やかさを増していったが、これらは当時の楽器製作者たちが、それぞれの考えに基づいて行ったものなので、統一されていたわけではなく、運指も複雑となり、必ずしも十分な効果が得られたわけではない。

メイヤー式フルート(円錐管、10キー) 1847年のベーム式フルートの登場によって、トラヴェルソの時代は終焉を迎えるが、トーンホールの径を大きくして音量を増すなどの改良が加えられた多キーのメイヤー式フルートは、フランスを除くヨーロッパやアメリカで、1930年代まで使われていた。

1キーフルートは、今なお古楽器愛好家のために復元楽器が多数製作されている。いわゆるアイリッシュ・フルートもトラヴェルソの生き残りであり、こちらはキーの無いシンプルなものが多いが、クラシカル・フルートのような多キーのものも作られている。

材質

モダン・フルートは、ほとんどが銀や洋白などの金属で作られているが、古いものはほとんど木製である。フラウト・トラヴェルソの管体の材質としては柘植(つげ)や楓(かえで)、梨(なし)、黒檀(こくたん)、グラナディラなどが用いられる。比較的軟らかい木材が好まれることが多く、現在製作されているトラヴェルソも多くが柘植製である。表面は塗装などの処理が施されていることが多く、外観だけでは材種がわかりにくいこともある。木材は湿度の変化などによって割れやすいので、定期的に内部に油を塗布するなどのメンテナンスが欠かせない。

木材以外で最も多く使用された材料は象牙で、総象牙製のフルートはとりわけ王侯貴族に愛用された。木製フルートでも、結合部の飾りあるいは補強のために象牙のリングを用いているものがある。しかし、象牙も割れやすいので今日まで残っている当時の楽器には、割れを補修してあるものが多い。クリスタルガラスで作られた美しいフルートも残っている。

キーは銀や真鍮(黄銅)、洋白などで作られており、穴を塞ぐ部分には薄いシート状のパッドが貼られて空気漏れを防いでいる。パッドの材質は皮などであるが、製作者によって異なり、スズ系合金であるピューター製の弁を用いるものもあった。 なお、現在は日本のトヤマ楽器製造(株)からABS樹脂製のトラヴェルソも発売されている。油を塗布する必要がなく、メンテナンスが容易である。

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